早稲田大学マニフェスト研究所 組織人材マネジメント調査

弊所の見解

早稲田大学マニフェスト研究所

早稲田大学マニフェスト研究所は、2005年度より地方分権・地方創生時代の地域経営に貢献する役所の組織づくりや人材育成を目的とした「人材マネジメント部会」(2024年度からは地域経営部会)を発⾜させ、自律・自立した地域をつくるために活動してまいりました。
地方創生法の施行から10年が経過した今、行政現場の実態を把握するために、「組織人材マネジメント調査」を全自治体を対象に実施しました。
調査は、「採用・人材確保」「人事配置・ 適材適所」「人材育成・研修」「人事評価」「首長・経営層の関わり」「デジタル活用・HR-Tech」のテーマごとに設問設計をしています。

このウェブページでは、その調査結果についてご報告します。

調査結果に対する
早稲田大学マニフェスト研究所の見解

職員の意識改革・人材育成・組織変革が大切と考える自治体が多い中で、その取り組みは「階層別研修」や「テーマ別研修」等、依然として従来実施している集合型研修が繰り返されており、その結果、行政組織の中で問題視されている「中堅・若手職員の退職増加」「業務のスクラップ&ビルド進まない」という課題解決に歯止めがかからない現状が窺える。
デジタル活用や人事 DX 等による可視化や共有化なども進んでいない。
一般会計予算における人材育成費の割合「0.1%以下」が 85%という現状は、自治体における人づくり・人材育成の優先順位が高くないことを示している。

何に困っているのか?

設問46「その他の人材マネジメントに関する以下の問題・課題について、当てはまるもの5つまで選んでください。」(n=614)

第1位

次を担う中堅・若手の退職増加

%
0

第2位

業務のスクラップ&ビルドが進まない

%
0

第3位

役職定年により降任となった職員の配置

%
0

採用の課題第1位は?

設問21「採用に関する問題で、重要と捉えているものをお選びください。」第1位(n=585)

専門職の応募が少ない

%
0

人材育成に関する予算は?

設問33「2023年度(令和5年度)予算における人材育成費(研修費・派遣費等)の額と割合」(n=239)

一般会計予算を分母とした場合の人材育成費の割合

0.1%以下

%
0

ランキング

弊所が重要と考えるポイントごとに取り組みを数値化しランキングにしました。
全国自治体の底上げをすることを目指しており、上位自治体のみを公表しています。ご回答された個々の自治体に対しては、総合順位や分野別傾向を記した個別票を提供しています。

【お詫び】総合ランキングについて、塩尻市を3位として発表しましたが、正しくは伊那市と並んで2位でした。訂正の上お詫び申し上げます。(2024.12.03修正)

総合TOP10

第1位

熊本市

「人事評価」部門で1位、「人材育成・研修」は5位、「人事配置・適材適所」「首長・経営層の関わり」で9位だった結果、総合順位1位となりました。特に、「人事評価」の活用は多岐にわたり、評価結果を基に昇給・昇進の差をつける仕組みが職員のモチベーション向上につなげようとしています。また、1on1面談や多面評価(360度評価)の導入など、工夫を凝らした取り組みが見られます。「人事配置」でも、職員本人の異動希望をできるだけ反映しモチベーションアップや組織全体のパワーアップを企図。複線型人事制度の導入も特徴といえます。一方、「デジタル活用・HR-Tech」分野は改善の余地があり、TOP自治体として注力を期待します。

第2位

伊那市

「採用・人材確保」「首長・経営層の関わり」部門で2位を獲得し、総合順位が2位となりました。経営層が会議体に参画し総合計画・戦略に人材育成に関する記述があると記載。さらに若手職員育成において、首長をリーダー、副首長をサブリーダーとするプロジェクトチームを設置し、政策提案の場を設けるなど、経営層が積極的に関与する姿勢が高得点の要因となっています。「採用・人材確保」では自組織のウェブサイト開設や大学訪問し大学や学生との関係性を構築。「人事評価」では期末面談後に、職員のキャリア育成に効果のある「フィードバック面談」を実施しています。

第2位

塩尻市

「デジタル活用・HR-Tech」部門で2位、他3部門でも3位を獲得し、総合順位で2位となりました。特に「採用・人材確保」では、民間企業に合わせ3月1日に開始し内定を6月1日に出すなどの工夫や、民間就活サイトで社会人採用枠をターゲットにプロモーションするなど、多様な広報・採用施策を展開。また、「人事評価部門」では「みんなから頑張りを認められた職員が報われる制度」を目指した評価項目の見直しや基準の可視化などの改革を令和4年に実施。さらにタレントマネジメントシステム導入による人事施策や、複線型人事を導入していることが特徴といえます。

第4位

愛媛県

特に際立つのは、「人事評価」分野で高得点を出し、全国4位でした。「昇任・昇格、昇給、分限(免職、降任等の処分)」、「勤勉手当への活用」、さらに「人材育成でも人事評価を活用している」と回答しており、設問35の「人事評価の活用」で満点を獲得しています。「人事評価の特徴的な取り組み」を尋ねた設問37では、「多面評価(360度評価)を導入」していると回答するなど、多様な工夫が見られ、高得点を出しました。なお、多面評価(360度評価)を導入している自治体は全体(有効回答618自治体)の6.0%です。

第5位

秦野市

「首長・経営層の関わり」部門では突出した得点で全国最高得点となり、この部門の全国1位を得ています。弊所は、組織・人づくりに経営層が強く関与すべきと考え、設定した設問の6分野(採用・人材確保、人事配置・適材適所、人材育成・研修、人事評価、首長・経営層の関わり、デジタル活用・HR-Tech)の中でも点数を重点配分しています。人材育成を人事担当者だけの問題とせず組織的に位置付け、それを推進するための体制を構築していることを重視していますが、回答自治体の3.1%しか取り組みんでいない「首長が参加・参画する職員の人材育成・人材マネジメントに関する会議体がある」(有効回答618自治体)など希少だが重要な取り組みを着実に行なっています。

第6位

富山県

5位と同様、「首長・経営層の関わり」部門で大きく点数を積み上げて全国3位となったことから、総合順位を押し上げています。知事が出席する会議において富山県成長戦略を策定し、柱のひとつに「県庁オープン化戦略」を掲げ、チャレンジする人材の育成・職員の意識改革の推進に取り組んでいます。また、組織や地域の枠を越えて地域課題の解決に取り組む職員の育成を目的とした課題解決型のフィールドワーク研修を実施し、知事も提案に関与するなど特徴的な取り組みが見られています。一方、「デジタル活用・HR-Tech」分野では改善の余地が十分にあり、TOP10にランクインした自治体として注力を期待します。

第7位

北海道

「人材育成・研修」と「首長・経営層の関わり」で高得点を上げています。これらの設問テーマは配点が大きいこともあり、総合順位を押し上げました。全体で8.2%(有効回答622自治体)に留まっている「人材育成が達成できているか評価・検証する仕組みがある」と回答していることや、都道府県庁という市町村と比して豊富な予算を背景に多様な研修メニューがあることも影響しているようです。一方、「人事配置・適材適所」の分野では改善の余地が十分にあり、TOP10にランクインした自治体としてこの分野への注力を期待しています。

第8位

長崎市

「首長・経営層の関わり」が全国7位、「デジタル活用・HR-Tech」分野が10位という順位で全体の順位を押し上げています。具体的には設問39の「人材育成・人材マネジメントへの首長経営層の関わりや方針展開」で、「副市長が職員の人材育成に積極的に関わっている」こと、「市長のマニフェストや総合政策の中に人材育成に関する記述がある」ことを評価。また設問43の現在活用している「ICTツール・サービスの機能」を問うと、エンゲージメント調査もツールを利用して行っていることがあげられています。

第9位

尼崎市

「首長・経営層の関わり」が全国9位で総合ランキング9位となりました。設問39「人材育成・人材マネジメントへの首長経営層の関わりや方針展開」では、市長と副市長が職員の人材育成に積極的に関わっていることが挙げられています。「職員の人材育成・マネジメントに関する会議体へ市長と副市長が参画している」ことも特徴的です。一方、人事異動・配置の工夫という点では、改善の余地があります。

第10位

塩竈市

「デジタル活用・HR-Tech」分野で全国7位という評価が全体のランキングを押し上げています。設問43で、「現在活用しているICTツール・サービスの機能」について、「職員の経歴・所属・資格等の管理」のみならず、「資質・能力・経歴・資格」、「研修管理」や「メンタルヘルスのチェック」、「採用、研修、異動のシミュレーション」まで活用していることを評価しました。

分野別TOP5

採用・人材確保

1位 奈良市
2位 伊那市
   小郡市
4位 福岡市
5位 佐井村
   東海村
   深谷市
   堺市
   鳴門市

人事配置・ 適材適所

1位 桑名市
2位 北九州市
3位 岩手県
   和光市
   町田市
   笛吹市
   長野市
   塩尻市

人材育成・研修

1位 吹田市
2位 松山市
3位 塩尻市
   大阪市
5位 北海道
   岩手県
   新潟市
   熊本市

人事評価

1位 熊本市
2位 筑後市
3位 塩尻市
4位 東秩父村
   千代田区
   愛媛県

首長・経営層の関わり

1位 秦野市
2位 伊那市
3位 葛巻町
   富山県
5位 京田辺市
   南あわじ市

デジタル活用・HR-Tech

1位 釧路市
2位 塩尻市
3位 石狩市
4位 藤枝市
5位 那珂市
   裾野市

※同得点の場合は同順位とし、それ以降の順位は繰り下げています。

テーマ分析

下記の予定でテーマ分析を公開していきます。 

テーマごとの調査結果要約

■ 採用・人材確保

  • 自治体によって採用の工夫や日程前倒しの取り組みが見られるものの、約40%の団体は「特に工夫していない」と回答し、複数の取り組みを回答している団体は10%だった。
  • SPIや性格診断などの新手法導入もあるが、ワークショップやインターンの活用は全体の8%だった。広報手段として「民間採用サイト」や「LINE」が多く利用され、さらに「自治体独自の採用サイト」も20%の自治体で運用している。

■ 人事配置・ 適材適所

  • 異動は「職員の希望」や「政策課題を尊重」する傾向がある一方で、「幅広い職務経験」を重視する配置が約70%の自治体で行われている。
  • 「異動や昇進・昇格の決定プロセスにおいて、外部テスト等によって得られたデータをどの程度利用しているか」との問いに、「主要な判断材料として利用」が2%にも満たず、異動・昇進・昇格の判断は人事課に属している職員や首長の感覚で判断されている部分が大きいと考えられる。

■ 人材育成・研修

  • 人材育成・確保基本方針について調査回答段階で「新たに方針の改正をしているか」との問いに、「改訂済」もしくは「改訂中」と回答した団体は26%に留まった。今後の改訂について「検討していない団体」は27%を超え、改訂にはやや消極的な結果が出た。(ただ、昨年12月の総務省からの指針発出以前に、すでに改訂済の自治体が含まれていることは留意したい)
  • 一般会計予算における人材育成費の割合を「0.1%以下」と回答した自治体数が85%と大多数だった。自治体における人材育成の位置付けが低い現状が見て取れる。

■ 人事評価

  • 勤勉手当への人事評価の活用が進んでおり、80%を超える自治体が利用している。分限(免職、降任等の処分)にも将来的に活用したい団体も60%を超え、人事評価の活用は広まる傾向がある。

■ 首長・経営層の関わり

  • 職員の人材育成に首長が積極的に関わる団体は15%、副首長(副知事・副市区町村長)は23%だった。弊所では、人事施策を個々の研修や異動という「縦割り」にせず、経営目標を実現するための「人材マネジメント」「戦略人事」と位置づけ、経営層が積極的に関わることを推奨している。

■ デジタル活用・HR-Tech

  • 人材育成や人材マネジメント施策を効率化するICTツール・サービスについて、過半数の自治体が「活用していない」と回答。活用団体の中でも、最も多い利用が「職員の経歴・所属・資格等の管理」で、「職員の資質・能力・経歴・資格等の可視化」を活用している団体は約8%とわずか。

■ その他(人材マネジメントの問題・課題)

  • 中堅・若手職員の退職増加が課題となっており、業務のスクラップ&ビルドや役職定年後の職員配置も問題視されている。さらに、マネジメント職に適性のある職員の育成や会計年度任用職員の評価方法や長期的なキャリア支援が、組織全体の課題として浮上している。

単純集計表をダウンロードする

調査概要

□ 調査方法等
全国1788自治体(都道府県・市区町村)の人事・総務担当に対し、①人事・総務担当のメールアドレスを把握している1039自治体へメール、②全自治体へはがきにて依頼文を送付。ウェブフォームにより回答を収集。

□ 調査期間
2024年8月5日(月)~9月20日(金)

□ 有効回答数
652回答(回答率 36%、都道府県:55%、政令市:85%、一般市:49%など)

□ 調査項目
人事施策のうち、①採用・人材確保、②人事配置・適材適所、③人材育成・研修、④人事評価、⑤首長・経営層の関わり、⑥デジタル活用・HR-Tech、⑦その他(問題・課題)、について全47問を聞いている。

□ 調査の特徴
自治体の人事はある種の「聖域」という文化があり、工夫の余地が少なかった。そのためどのような工夫をしているかを中心に聞いている。なお、弊所基準による得点化を行い、ランキングを回答自治体には送付する予定。自組織の位置づけや先進自治体のベンチマークに用いることができる。

自治体の皆様へ

この度は、お忙しいところ調査への回答ご協力誠にありがとうございました。
お取り組みに活用していただけるように、2024年10月29日付で、回答いただいた全ての自治体様宛に下記のものを送付していますのでメールをご確認ください。

□ レーダーチャート
トップの自治体、平均、ご自身の自治体との比較が分野ごとに可能です。客観的・視覚的に立ち位置を知ることにご活用ください。

□ 個別データ票
取り組みを数値化、得点化(順位)したものを一覧にまとめています。自治体区分(都道府県、政令市など)の中での順位、「採用・人材確保」「人事配置・適材適所」「人材育成・研修」「人事評価」「首長・経営層の関わり」「デジタル活用・HR-Tech」の各テーマごとの重点設問での得点などもご確認いただけます。

「地域経営部会」のご案内

自治体組織の課題を取り上げ、解決に向けた研究の場です。
ご関心がございましたら、お問い合わせください。

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