早稲田大学マニフェスト研究所
組織人材マネジメント調査2024 テーマ分析​

採用・人材確保

問題提起

  • 採用・人材確保は、「組織の目的を実現」するために、企画し、現場で住民や地域に成果を生み出す人材を中長期的に確保するものである。経営戦略の中の「人事戦略」であるとの視点に立って、人事部門だけの仕事ではなく、経営層もふくめ組織全体で戦略的に取組みを進めるべきではないか?
  • 民間企業と併願する受験者にとって、自治体と民間企業は同じ天秤にかけられている。「受験者が本当に知りたいと思っている情報はなにか?」を捉えるため、自治体が学生にもっと寄り添い、どのような考えをもっているか学生視点を把握したうえで、採用・人材確保の施策を工夫すべきではないか?
  • 受験者は「自治体の組織風土や働き方改革が進んでいるか」を知りたいが、伝えている自治体は少数。「安定、仕事が楽」というイメージは過去のもの。いまの自治体現場がどんな状況なのか、現状を把握し、どう改善をすすめようとしているか、受験者に伝える勇気を持つことが必要ではないか?
  • 【キーワード】「戦略人事」「受験者が本当に知りたい情報を把握」「組織の改善・改革の取組みを伝える」

[採用・人材確保]
ランキング

順位 自治体名 得点率 特徴
1位
奈良市
68.9%
実施時期を1か月早め、人物重視採用のために合格基準や質問内容を見直し
2位
伊那市
62.2%
実施時期を1か月早め対象年齢を広げた。個人向けに「いつでもガイダンス実施」
2位
小郡市
62.2%
志望者増を目的に日程前倒し、録画面接、テストセンター式の適性検査を導入
4位
福岡市
60.0%
採用試験手続きのデジタル化による負担減、技術職志望者向けの職場見学会を開催
5位
佐井村
57.8%
テストセンター方式導入、通年募集、募集開始時期を早めて応募後に随時、受験
5位
東海村
57.8%
受験日程の早期化、面接試験への外部人材活用、オープンカンパニー*実施
5位
深谷市
57.8%
日程の前倒し、SCOAやテストセンター方式導入、情報収集手法の把握と周知
5位
堺市
57.8%
技術職・社会福祉職向けにウェブ座談会や採用ナビゲーター面談を開催
5位
鳴門市
57.8%
行政職はSPIで受験、一次試験よりウェブ面接を導入し面接重視の試験内容に変更

※同得点の場合は同順位とし、それ以降の順位は繰り下げています。
※ランキング上位の特徴を取り上げ、全国自治体での底上げをすることを目指しており、上位団体のみを公表しています。
※オープンカンパニー…オープンキャンパスの企業版。学生への説明会。

自治体側が考える
「求める人材像」と「採用の問題・課題」感

▼Q20 選考で大事にしているもの
※グラフは1位のみ。設問は1位、2位、3位をそれぞれ聞いている​

▼Q21 採用で重要と捉えているもの
※グラフは1位のみ。設問は1位、2位、3位をそれぞれ聞いている

  • Q20「選考で大事にしているもの」を1位から3位まで聞いた。1位でもっとも多かったのは「コミュニケーション能力」、2位「チームワーク」、3位「公務員の仕事への熱意」が多数だった。
  • Q21「採用に関して重要だと捉えているもの」の1位から3位をみると「専門職の応募が少ない」「優秀な人材に合格を出したあと内定辞退」「採用者の質が心配」といったものがあがった。

採用活動は、上記のような「問題・課題の解決」や「求める人材の確保」のために実施されている。 以下、調査結果と各自治体の取組内容について①実施時期、②試験内容、③広報手法を記載しています。

【個別の採用施策分野の分析と取組の紹介】

▼Q9-12 実施時期・回数の工夫

  • Q9で「新卒採用の実施時期・回数の工夫をしているか」との問いに、「はい」5%、「いいえ」39.5%と、約4割は工夫に取り組んでいないことが明らかになった。Q10「実施時期の前倒し」は40.7%と、民間企業の前倒しに対応している自治体も一定数あった。
  • Q11「実施時期の工夫」として、「他自治体の日程を考慮」が多数だったが、「民間企業を考慮している」のが8%、「大学3年生3月以前」としたのは9自治体(1.5%)あった。

工夫された取組:【名簿搭載期間の延長】(東京都庁・東京特別区・八王子市など)

  • 公務員試験(事務・行政)の合格者が搭載される登録者(採用候補者)名簿の有効期間は自治体や試験によって異なっている。搭載期間1年から3年への延長が進んでおり、採用希望年度を選択できるようになっている。(参考:奈良県は5年間)
  • 大学院進学・留学・民間企業への就職など多様なキャリアを希望する合格者が採用年度を選択できるため選択の幅を広げている。制度変更で採用者数に変化が生じたか経年で追っていく必要がある。

工夫された取組の紹介(採用・人材確保ランキングTOP 6位以下の自治体)

  • 茅ヶ崎市:通年エントリー制度の導入、面接官(人事部局以外の部長も対応)
  • 高島市:職種や卒業区分に応じ、4期に分けて採用試験を実施
  • 尼崎市:民間企業・他市と日程重複による辞退を防ぐため、週末や平日夜間の試験(面接)実施

▼Q13-15試験内容の工夫:工夫された取組の紹介 ※下記表は8位まで

  •  Q13「試験内容の工夫」として、「適性診断」は広く普及。公務員向け勉強ではなく民間向け人材を確保するための「専門試験の廃止」は31.9%が導入。
  • 「面接に性格・資質がわかる資料を活用」は24.0%、「面接に外部人材を活用」も15.8%で実施されている。

工夫された取組:【多角的な視点を参考に】新潟県妙高市へのインタビュー

  • 面接だけでは見極められない受験者の性格や考え方を少しでも多く把握するため、ディスカッションを実施。20~30歳代の正職員がSOUNDカード™を利用しディスカッションをした。「一緒に働きたいか」という視点で評価を行い、評価結果は面接時の参考とした。
  • ディスカッションに参加する正規職員に責任感を負わせないために、評価結果が全てではないことを告げている。副次的な効果として、評価する側から「勉強になった」という声もあがっている。

工夫された取組の紹介(採用・人材確保ランキングTOP 6位以下の自治体)

  • 旭川市:人物重視の採用試験を実施するため,第1次試験でオンライン面接を受験者全員と実施
  • 桑名市:1次試験で筆記試験よりも先に(あるいは並行して)集団面接やグループディスカッションなど来庁試験を実施することで、試験当初からコミュニケーション能力などの評価項目を重視
  • 栃木市:担当職員や面接職員では気付けない精神面(メンタル)を評価するため、外部面接員を使用
  • 宇陀市:外部のアドバイザーを活用し面接での判断基準等のアドバイスをもらっている
  • 取手市:令和6年度にリーダーシップ・協調性等を重視し教養試験を省略する「自己推薦枠」を実施
  • 三鷹市:2023年度、2024年度ともに、事務職(新卒採用)では、集団内での社会性、協調性など個人の本質的な面も評価し、多角的に良い人財を確保するため、行動対応力検査を実施
  • 益田市:令和6年度、本市と包括連携協定を締結している関わりの深い大学と推薦選考の取決めを実施

▼Q16-18広報・周知の工夫:工夫された取組の紹介 ※下記表は8位まで

  • Q17「新卒採用の広報・周知の工夫」について、「民間採用サイト」が51.1%、SNS活用は「LINE活用」4割を筆頭に、ほかサービスもふくめて多数。「自組織での採用専用サイト」は20.1%と、オウンドメディアでの広報・周知に取り組む自治体も一定数あった。

工夫された取組:【組織の強みを生かすデータ活用】静岡県掛川市へのインタビュー

  • 内定辞退率の低下のため、①受験者が求める「組織風土・働き方改革の取組」のデータ公表(参考URL)、②選考とは別に、役所訪問時に職場見学や個別面談を実施、の2軸で取組んでいる。
  • 担当の前職がDX担当で、データにもとづいた採用事業を検討。応募者にはエントリーシート後段に「興味をもった理由」「情報の入手経路」などを、さらに内定者にも「市をよく思ったきっかけ」「内定承諾に至った理由」などをアンケートで聞き、傾向を把握した。結果、「働く職場が気になる」という声があったことを特定した。 ※外部人材との交流も取組に至るきっかけの1つとのこと
  • 以前、エンゲージメント調査を実施し「掛川市は組織風土が強み」という思いがあり、情報発信を提案。結果、内定辞退率は減少、内定者も「職場や雰囲気がわかってよかった」など好評。
    掛川市 採用ページ →掛川市 「働き方改革2.0」の取り組みについて
工夫された取組の紹介(採用・人材確保ランキングTOP 6位以下の自治体) 
  • 徳島市:本市職員として働くことの魅力ややりがい等を感じてもらい、優秀な人材を確保することを目的に「職員採用オンライン個別相談会」を開催(令和6年度)
  • 伊那市:複数人対象以外に、個人を対象とした「いつでもガイダンス」を実施。このガイダンスは対面でもオンラインでも対応を可能としており、これまでに数人対応している
  • 京都市:令和5年度から、学生が業界研究を活発に行う夏休み期間にオープン・カンパニーを実施
  • 小山市:大学や高校へ技術系職員が出向き、職場情報を学校側に提供して学生確保につなげるよう努力
  • 福岡市:福岡市の技術職に関心がある人を対象として、年2~3回、技術職の職場見学会を実施

テーマ分析レポート

採用・人材確保(2024/12/26)

調査概要

□ 調査方法等
全国1788自治体(都道府県・市区町村)の人事・総務担当に対し、①人事・総務担当のメールアドレスを把握している1039自治体へメール、②全自治体へはがきにて依頼文を送付。ウェブフォームにより回答を収集。

□ 調査期間
2024年8月5日(月)~9月20日(金)

□ 有効回答数
652回答(回答率 36%、都道府県:55%、政令市:85%、一般市:49%など)

□ 調査項目
人事施策のうち、①採用・人材確保、②人事配置・適材適所、③人材育成・研修、④人事評価、⑤首長・経営層の関わり、⑥デジタル活用・HR-Tech、⑦その他(問題・課題)、について全47問を聞いている。

□ 調査の特徴
自治体の人事はある種の「聖域」という文化があり、工夫の余地が少なかった。そのためどのような工夫をしているかを中心に聞いている。なお、弊所基準による得点化を行い、ランキングを回答自治体には送付する予定。自組織の位置づけや先進自治体のベンチマークに用いることができる。

自治体の皆様へ

この度は、お忙しいところ調査への回答ご協力誠にありがとうございました。
お取り組みに活用していただけるように、2024年10月29日付で、回答いただいた全ての自治体様宛に下記のものを送付していますのでメールをご確認ください。

□ レーダーチャート
トップの自治体、平均、ご自身の自治体との比較が分野ごとに可能です。客観的・視覚的に立ち位置を知ることにご活用ください。

□ 個別データ票
取り組みを数値化、得点化(順位)したものを一覧にまとめています。自治体区分(都道府県、政令市など)の中での順位、「採用・人材確保」「人事配置・適材適所」「人材育成・研修」「人事評価」「首長・経営層の関わり」「デジタル活用・HR-Tech」の各テーマごとの重点設問での得点などもご確認いただけます。

「地域経営部会」のご案内

自治体組織の課題を取り上げ、解決に向けた研究の場です。
ご関心がございましたら、お問い合わせください。

上部へスクロール