早稲田大学マニフェスト研究所
組織人材マネジメント調査2024 テーマ分析​

人事評価

問題提起

  • 上位自治体は、人事評価を「人材育成」のツールの1つとして運用している。多面評価など、被評価者や、評価者自身の意識や行動を振り返ることができる制度の導入も多い。どのような制度なら職員のモチベーションを高め、業務の効果性・効率性を高められるかを検討してほしい。

 

  • 評価制度を工夫することで組織風土への良い影響が期待される一方、評価者の業務が増え、給与・処遇の法知識や評価運用・管理の手間など多くの影響範囲が想定される。適切な運用と成果創出に向けて、システム化など手間の軽減もふくめて他自治体の事例、民間企業にも視野を広げて真似してほしい。

【キーワード】処遇反映と人材育成、1on1(ワン・オン・ワン)、結果のフィードバック、業務のシステム化

大谷 基道・獨協大学教授コメント

「人事評価は人材育成の出発点」

人事評価は処遇への反映のほか、人材育成にも活用すべきものである。職員の能力の現在地を把握し、足りない部分を研修等で補う。現在地が不明では、どんな研修を受けるべきかも判断できない。

それにもかかわらず、人材育成に活用している自治体は半数程度にとどまっている。今どきの若者は「自分が成長できる職場」を望んでおり、人材育成に注力していないと思われると採用が極めて困難になる。

まずは人事評価を人材育成に可及的速やかに活用することが期待される。

【略歴】茨城県職員等を経て2016年から獨協大学法学部教授・法学部長。専攻は行政学・地方自治論

[人事評価]
ランキング

順位 自治体名 得点率 特徴
1位
熊本市
76.9%
目標設定に重きを置き、面談実施は期首・期中・期末に加えて1on1*も実施。
2位
筑後市
74.4%
R4年度より課長級対象の多面評価*を導入。現在は部長級へ拡大し実施中。
3位
塩尻市
71.8%
「頑張りが認められた職員が報われる」制度を目指し人事評価改革をR4に実施。
4位
愛媛県
66.7%
適材適所、管理職の自己啓発や風通りの良い職場づくりを目指し多面評価*を導入。
4位
千代田区
評価結果を昇任・昇格、昇級のほか多様に活用。過去に分限への活用もあり。
4位
東秩父村
面談は1on1も実施。「直属の所属長以外に同僚や部下で評価者がいる」と回答。

※同得点の場合は同順位とし、それ以降の順位は繰り下げています。
※ランキング上位の特徴を取り上げ、全国自治体での底上げをすることを目指しており、上位団体のみを公表しています。
※多面評価…上司から部下の評価だけでなく、部下・同僚・他部署など複数人で評価を行う手法。360度評価とも呼ばれる。
※1on1(ワン・オン・ワン…定期的に部下と上司が1対1で行う面談・対話。主に部下の成長やキャリアアップを支援する目的で行われる。

ランキング上位の取り組み

  • ランキング上位の多くで「1on1など多様な面談」や「多面評価の導入」が共通項。従来の「上司から部下」のみの人事評価では、上司の属人的・恣意的な評価が懸念される。上司に限らず、同僚や部下など多様な評価を受けることで、評価の信頼性や納得感を高めることができる。なお、この言葉には、「部下から上司への評価」という側面もあり、管理職のマネジメントについて、部下からの評価を気づきのきっかけとして受け取り、意識や行動を変容することも期待されている。
  • 一方、部下からの評価が「人気投票」になってはいけない。処遇に反映されると上司が部下の指導をしづらくなるなど、どの評価でも評価の質が問われる。また、多面評価によって運用管理、作業が煩雑になるし、小規模組織だと職員が数名だと機能せず、部下は本音が言えなくなる。一般的な人事評価の質を高めるという道もあるので、自身の組織にあった評価と活用が検討されるべき。

工夫された取組①:【目標設定を部長中心に、前年度から実施】熊本市へのインタビュー

  • 従来の目標設定は新年度4月から行われることが通例。ただ、新任課長や担当者が精度の高い目標を設定することは難しく、期首面談における課題の1つといえる。
  • 熊本市では、部長が課長のマネジメントを支援し、俯瞰的な視点や中期的・広範囲の人材マネジメントの機能発揮と業務の円滑化を目的として、各部長を中心に「次年度の局・部・課の組織目標」を「旧年度中」に設定している。旧年度に業務を推進し課題や進捗を熟知した職員が次年度目標を設定することで、精度の高い目標設定とスピード感をもった業務推進を図っている。
  • 人材育成基本方針の改訂後、管理職への意識づけとして事務決裁訓令に「人材マネジメント」に関する役割分担を明示。部長層が組織づくりにコミットできる権限を少しずつ拡大している。

人事評価でどのようなことを実現できているか?

▼Q37 人事評価に関する取組 ※グラフは9位まで

▼分析・コメント

  • 設問37人事評価の取組としてもっとも多かったのは「評価結果により昇任・昇給に差がつくことで職員のモチベーション向上」が32.7%で1位だった。従来の評価手法を改めて「多面評価(360度評価)」を導入しているのは6.0%(37件)。
  • 一方、「取組みはない」との回答は22.2%。少なくとも上記対応はしていない団体が一定数ある。

総務省は令和6年12月26日発出の通知で、人事評価の目的について「職員のモチベーションを高め、組織全体の公務能率の向上につなげていくため、評価結果の活用を通じ、人材育成につなげていくことが重要」と指摘している。評価導入を目的とせず、どのような工夫がなされているかを①人事面談の実施、②現在の人事評価の活用、③今後の人事評価の活用、④工夫された取組や事例、について紹介したい。

▼Q34 個別の人事評価施策分野の分析と取組の紹介

▼分析・コメント

  • 設問34「人事評価の個別面談の頻度」を聞いた。総務省「人事評価実施要領(運用の手引き)」で示されているとおり、人事評価制度を導入している以上、少なくとも目標設定の「期首面談」と、結果開示の「期末面談」の実施が想定されるが、いずれも9割程度にとどまっている。
  • 期間中に意識合わせや調整をする「期中面談」の実施は60.0%だった。さらにキャリア支援を主な目的として随時実施される「1on1」も7.7%(48件)と一定数あった。評価を目的とせず1対1のコミュニケーションを狙いとする「1on1」が広がることは望ましいといえる。
  • 期の途中で前提が変わったり、達成度合いの調整が必要なこともあり期中面談は効果的といえる。期中面談やらずに、12月の勤勉手当にどう反映しているのか?という疑問は残る。

▼Q35-36 「現在」と「今後」人事評価の活用

▼分析・コメント

  • 設問35「現在の人事評価の活用」では、「勤勉手当への活用」は8割超えで多数。なお、令和6年度から会計年度任用職員へ勤勉手当の支給が開始され、人事評価結果の反映も求められている。
  • 設問36「今後」と設問35「現在」の差に着目すると、「人材育成」「分限への活用」のニーズは一定程度ある。一方、「活用したいものはない」という回答も5%程度あるが、すでに活用をしているため「これ以上活用したいものはない」という意味合いで選択している可能性がある。

▼Q38より:工夫された取組の紹介と自由回答の抽出(自由回答を要約・抜粋)

【多面評価の導入】

  • 東京都品川区:令和5年度より360度評価を一部部署にて試験導入。ポジティブな意見を上司を含めた同僚より集め、自身の長所に気づきを与えることを実現(令和6年度は被評価者を管理職全体とし部下により管理職への評価を実施予定)
  • 滋賀県:上司が自らの強みや弱みについての「気づき」を得て、強みを伸ばすとともに、弱みを克服することによりマネジメント能力の向上に寄与することを目的として、マネジメント・フィードバック(多面的評価)を実施
    (ほか導入自治体例)北海道千歳市/東京都多摩市/岐阜県美濃加茂市/島根県/愛媛県/愛媛県松山市/福岡県/大分県大分市など

【多面的な評価の実施】 ※多面評価と記載はないが同様の記載が認められるもの

  • 神奈川県相模原市:管理監督者に自覚と気づきを与え、意識改革の促進やマネジメント力の向上を図るため、部下が所属の上司を評価するマネジメントサポート制度(双方向評価)を導入
  • 大阪府:上司部下間のコミュニケーション円滑化と上司の意識改革促進のため、部下が匿名で上司を評価する制度を年2回(8月及び12月)実施。期中評価後に期中面談を実施することで、評価される部下へのフィードバック機会を創出
  • 香川県高松市:マネジメント能力の発揮状況への気付きを促し能力向上を図るとともに、人事評価をより公正かつ妥当なものとするために部下から上司に対する観察評価(多面観察)を実施
    (ほか自治体例)秋田県潟上市/茨城県水戸市/新潟県長岡市など

【面談の重視、フィードバックの実施】

  • 青森県三沢市:各職員へ評価のフィードバックを行っている
  • 長野県伊那市:期末面談後に、フィードバック面談を実施

【目標設定・項目の工夫】

  • 岩手県葛巻町:課内で共通の業務目標を設定し、課業務方針に基づいた職員個人の目標設定
  • 神奈川県茅ヶ崎市:業績評価において、管理監督職員が取り組むべきマネジメント上の問題について「人財マネジメント目標」の設定を義務付け、設定した目標等を全職員に公開。公開した目標等を踏まえ、担当者が管理監督職のマネジメント能力を評価する「マネジメント点検」を年2回実施しており、その結果を人事評価の参考資料とすることで、人事評価制度を通じた管理監督職のマネジメント能力の向上を促している
  • 富山県富山県:働き方改革や職員としてあるべき姿など、業務の内容以外の部分についても目標を設定し、評価を行っている
  • 愛知県岡崎市:職員がいきいきと働きがいをもって働くことができる職場づくりを推進するため、令和4年度以降イクボス度を項目化し、試験的に導入
  • 大阪府摂津市:職員育成・行動基本計画に示した市として求める人物像に向けての人材育成となるよう評価項目を計画に規定する能力と統一を行っている
  • 福岡県北九州市:(略)自主的・意欲的に活躍する職員が評価される組織風土を醸成することを目的とし、R6年度は以下の取組みを実施。①管理職の業績目標に「新ビジョン・変革推進プラン」に沿った目標の設定や所属職員への変革マインドの浸透にかかる取組みを明確に位置づけ、②能力評価の要素に「変革マインド」等を取り入れ、職員の自発的な変革を促す

【その他評価方法の工夫】

  • 千葉県:(略)職員一人ひとりがキャリアビジョンを意識しながら、強みを伸ばし、弱さを克服するために、日々の職務遂行や研修等を通じて、能力開発にどのように取り組むかを計画できるよう、評価様式とは別に「能力開発の取組」様式を策定し、職員の能力開発に取り組んでいる
  • 千葉県八街市:令和6年度より、高レベルの業務目標について、所属長間で事前に情報を共有しレベルの調整を行うとともに庁内イントラでの公表を行っている。
  • 長野県塩尻市:「みんなから頑張りを認められた職員が報われる制度」を目指して、評価項目の見直し(各職層に求められる役割の見直し)、評価基準の可視化、全庁調整機能の設置などの人事評価制度改革をR4年度に実施。あわせて、タレントマネジメントシステムを導入し、人事評価の結果をデータとして蓄積し、人材配置や昇任昇給に活用できる仕組みを構築
  • 山口県下関市:人事評価結果の被評価者への適切なフィードバックを図るため、面談を行う評価者を対象とした「面談」に特化した研修の実施

▽自由回答の分析と工夫された取組・改善の余地のある取組の紹介

  • 大きく分けて「多面評価」「成長や気づきを促すフィードバックの場の設定」「目標設定や項目の工夫」「その他」、さらに運用のシステム化についても事例が集まった。
  • 評価結果の調整に外部人材に関わってもらう事例があった。さらに評価面を強調するより、人材育成やコミュニケーションの場として位置付ける自治体も多くあり、目標設定やフィードバックなどの面談を重視する団体や、自己理解・相互理解に役立てる取り組みもあった。
  • 一方、評価の活用が進んでないとする回答も一定数あった。「活用が進んでおらず、職員組合と協議中」「令和5年度より本格スタートしているが評価者、被評価者それぞれの理解、定着がまだ足りていない。活用できるまでまだ時間がかかる」「評価者の評価が甘くなりがちであり、正当な評価に繋がっているか非常に疑問」「人事評価は、形骸化しているが、どうせやるならきちんと人材育成に繋がるものとしたいため、工夫をしていきたい」といった現場の生の声もみられた。

工夫された取組②:【部下の評価結果を上司が見ることができる】東京都・町田市インタビュー

  • 人事評価を「庶務事務システム」というイントラネットに挙げて、公表している。これは、職員自身の評価が見られるようになっていると共に、上司が部下の評価を管理するシステムとなっており、期初、期末の1対1面談に役立てている。
  • 上司に異動があった場合、申し送り以外に、このシステムの引継ぎもあり、自分の部下が前年度どのようなパフォーマンスをしてきたか見ることができる。この情報を元に部下の強み、改善点を探り、次年度の目標設定に活用する。期末面談では目標と業務を振返り、その情報を元に職員の育成に役立つようにしている。

工夫された取組③:【業績評価をチーム(係)評価で運用】埼玉県・深谷市インタビュー

  • 「業務はチームで行うもの」という考え方のもと、業績評価をチーム(係)評価により運用。市では係制(係単位)を採用しているが、係長が係員との意思疎通、上司と課題感を共有し、期首設定時に協議のうえで目標を設定。際立った業績を上げた人は、行動面から人材評価(能力評価)のほうでも評価に反映。業績評価において、内容によっては係員で関与が異なる場合にも一律に評価に反映される、といった課題はたしかにある。
  • 近隣にも同様の例がないと把握。大谷教授によると、アメリカの自治体で同様の事例を見たとのことで、むしろ「大部屋主義」の日本のほうが「チーム評価」運用は馴染むのでは、とのコメントあり。

工夫された取組④:【評価の妥当性を検証する会議の開催】静岡県・富士宮市インタビュー

  • 職責に見合った目標を立てているか、客観的に見て評価者が行った評価が妥当か検証するため、部署ごとでの評価のばらつきをなくすため、外部講師による会議を年度の始めと終わりの2回実施。
  • 人事評価制度導入当初(平成29年)からこのような仕組みを導入。当初から大学の専門家を招いて年2回継続して実施している。1週間程度の期間で日程を分けて実施。
  • 人事課でピックアップしたものを中心に検証対象としている。年度初めでは評価のあり方についてのレクチャーを受け、年度終わりでの会議で講師から評価の妥当性や部署を俯瞰して見た時の評価のばらつき(全体感)等について協議する。職責にあった目標設定のあり方や業績評価シートの書き方(曖昧な表現になっていないか?)などを踏まえ検証する。
  • 会議の出席者は、一次評価者(課長級)、二次評価者(部長級)、人事課担当者。

テーマ分析レポート

人事評価(2024/01/29)

調査概要

□ 調査方法等
全国1788自治体(都道府県・市区町村)の人事・総務担当に対し、①人事・総務担当のメールアドレスを把握している1039自治体へメール、②全自治体へはがきにて依頼文を送付。ウェブフォームにより回答を収集。

□ 調査期間
2024年8月5日(月)~9月20日(金)

□ 有効回答数
652回答(回答率 36%、都道府県:55%、政令市:85%、一般市:49%など)

□ 調査項目
人事施策のうち、①採用・人材確保、②人事配置・適材適所、③人材育成・研修、④人事評価、⑤首長・経営層の関わり、⑥デジタル活用・HR-Tech、⑦その他(問題・課題)、について全47問を聞いている。

□ 調査の特徴
自治体の人事はある種の「聖域」という文化があり、工夫の余地が少なかった。そのためどのような工夫をしているかを中心に聞いている。なお、弊所基準による得点化を行い、ランキングを回答自治体には送付する予定。自組織の位置づけや先進自治体のベンチマークに用いることができる。

自治体の皆様へ

この度は、お忙しいところ調査への回答ご協力誠にありがとうございました。
お取り組みに活用していただけるように、2024年10月29日付で、回答いただいた全ての自治体様宛に下記のものを送付していますのでメールをご確認ください。

□ レーダーチャート
トップの自治体、平均、ご自身の自治体との比較が分野ごとに可能です。客観的・視覚的に立ち位置を知ることにご活用ください。

□ 個別データ票
取り組みを数値化、得点化(順位)したものを一覧にまとめています。自治体区分(都道府県、政令市など)の中での順位、「採用・人材確保」「人事配置・適材適所」「人材育成・研修」「人事評価」「首長・経営層の関わり」「デジタル活用・HR-Tech」の各テーマごとの重点設問での得点などもご確認いただけます。

「地域経営部会」のご案内

自治体組織の課題を取り上げ、解決に向けた研究の場です。
ご関心がございましたら、お問い合わせください。

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